1.代表からのご挨拶

当社は、「ものづくりの原点は“現場”にある」という信念のもと、今から9年前、社員が日々記入していた手書きの作業日報をデジタル化するという、小さな一歩からDXをスタートしました。
そこから社員とともに一つひとつ業務改善を積み重ねる形で、地に足のついたDXを進めてきました。

こうした日々の取組により、今では社内の生産活動で必要な情報を一元管理できる内製システムを構築して、工数削減、納期短縮、情報の可視化といった具体的な成果を生み出しています。
これらの改善は、単に業務を効率化するだけでなく、社員一人ひとりが働きやすく、やりがいを感じられる職場づくりにもつながっています。

今後は、この自社で培ったDXの知見とシステム開発力を活かし、地域企業にも還元していきたいと考えています。
中小企業だからこそ実現できる「現場密着型」のDX支援により、地域全体の生産性向上と持続的な成長に貢献することが、私たちの使命であると考えています。

2025年8月25日

株式会社カワイ精工
代表取締役社長 川合 忠昭

2. DX推進の背景と目的

近年、デジタル技術の進化により、顧客ニーズの高度化、短納期対応、品質トレーサビリティなどが求められ、製造業を取り巻く競争環境は急速に変化しています。
当社においても、以下のようなリスクおよび機会が存在すると認識しています。

リスク

  • 価格競争の激化と収益圧迫の懸念
    同業他社によるIT活用の進展や海外メーカーとの競合により、価格競争が一層激化、収益性の低下が懸念
  • アナログ業務の限界と属人化のリスク
    電話・FAXや紙ベースのアナログ的な業務運用とベテラン社員の勘と経験に依存した属人化によるリスク
  • IT人材不足による競争力低下リスク
    IT人材採用競争の激化により、技術継承やデジタル人材の継続的な確保に課題

機会

  • 内製システムによる業務改革と競争力強化
    内製システムの開発で業務のデジタル化を図り、生産性や精度の向上、迅速かつ柔軟な業務体制による競争力強化
  • DX支援の事業化による新たな収益源化
    金型業界での自社DX推進の成功経験を、外部の同業他社や地場企業に展開しDX支援・システム開発をサービスとして事業化
  • 地域貢献・教育連携による人材確保の機会創出
    地元教育機関への人材教育支援により、地域貢献・連携による中長期的な人材育成に資する仕組みを構築

3. 企業理念・DXビジョン

【経営理念】

生産経済の要である金型を、確かな技術と誇りを持ってより良い品質で提供し、お客様の信頼と満足を得る企業を目指す。
同時に、ものづくりを通じて社員一人ひとりが生きがい・やりがいを実感し、成長と幸福を分かち合える会社でありたい。


【DXビジョン】

①ものづくり現場の進化

ものづくりの現場を進化させ、社員の力を最大限まで発揮できる環境を整え、より高品質な製品提供で顧客に選ばれる企業へ

②新規事業による収益の安定化

DX推進により新しい価値を創出・事業化して、事業ポートフォリオを強化

③DX支援を通じた地域貢献

地域企業のデジタル化を伴走支援し、DXの推進と持続的な発展に貢献

経営理念 信頼・品質・誇り 成長と幸福 DXビジョン ① ものづくり現場の進化 ② 収益の安定化 ③ 地域貢献(共創)

4. ビジネスモデルの方向性

DXビジョンを実現するため、以下の4つの柱を軸としたビジネスモデルの展開を進めています

  • ①金型製造における生産性向上モデルの深化
    設計から出荷までの全工程を標準化・データ化することで高品質かつ短納期対応を実現
  • ②自社DXノウハウの事業化による新収益源の創出
    自社で培ったDXのノウハウやシステム開発力を地域企業に展開し、IT事業を新たな収益源へと成長
  • ③事業シナジーに伴う受注の創出
    ITと金型の事業シナジーを活かし、受注拡大と相乗的成長を実現
  • ④地域製造業との共創モデル
    人材育成や教育連携により、地域中小製造業全体のデジタル化と競争力を底上げし、地域価値の向上を図る共創モデルを志向
金型事業設計~製造~出荷標準化・データ化 IT事業内製システム・DXノウハウ伴走型DX支援 DXノウハウ・現場改善データ 内製システム・新規接点による受注拡大 地域共創(学校・自治体・企業)

5. DX戦略

当社では、経営ビジョン実現に向け、以下3つの柱からなるDX戦略を策定しています

①金型製造プロセスの標準化・可視化

金型設計から納品に至る一連の金型製造のプロセスを自社開発システムで統合しデジタル管理。 属人業務を標準化し、納期短縮と安定品質を両立して金型事業の価格競争力と信頼性を向上

②DXノウハウの対外展開

DX内製の成功事例とそこで培ったシステム開発力を基に、地域企業へ伴走型でDXを支援。 システム受託開発や改善支援、講演を通じて新たな収益軸として確立し事業成長を牽引するとともに、地域のDX推進を支援

③人材育成と地域共創

金型製造技術の体系化・継承と、現場経験者や未経験者へのITスキル教育体制を構築し、 金型技術とITスキル双方を持つ人材の育成を強化。また専門学校や講演を通じて、地域のデジタル人材基盤を強化。


6. 具体的な取り組み

当社のDX戦略である「①金型製造プロセスの標準化・可視化」「②DXノウハウの対外展開」「③人材育成と地域共創」を実現するため、データの収集・分析・活用を組み込んだ具体的な施策を実行します

  1. 生産現場データを活用した業務最適化

    作業実績や材料使用状況、生産進捗などを内製の生産管理システムでリアルタイム蓄積。発注ミスや納期遅延に繋がる問題を早期に把握し、現場主導で改善を行う仕組みを構築して生産性が大幅に向上

  2. 見積精度向上に向けた過去データの活用

    受注実績・原価・工数などを一元管理し、見積の根拠データとして活用。属人的な価格算定を標準化することで精度と迅速性が向上し、顧客対応力と営業活動の信頼性を強化

  3. 部門間の情報共有と意思決定の高度化

    案件ごとの進捗・納期・課題を共有できる仕組みを導入。現場・管理部門・営業が同じデータに基づき判断することで、社内の共通認識が促進され、プロジェクトの推進力と対応スピードが向上

  4. 改善データ・システムを活用した対外支援と再現モデル化

    自社で蓄積した作業時間や原価、不良率などの改善データやその分析ノウハウ・システムを他社支援へ展開。改善効果や導入プロセスをテンプレ化することで、類似業種に高い再現性で成果を提供するDX支援サービスを事業化

  5. 金型技術に関するナレッジの可視化と継承

    個人依存だった作業手順や加工条件を標準化・デジタル化。熟練技術を組織的に蓄積・共有する仕組みを整え、技術継承の仕組みとして強化。若手や未経験者の育成基盤を築き、持続的な人材確保を実現


7. DX推進体制

当社では、DX戦略の円滑な推進に向けて、現場起点で柔軟に機能する小規模・高機動型の体制を構築しています

①経営層主導と現場連携によるDX推進体制の確立

DX戦略の意思決定は、社長によるトップダウンで行われ、専務が推進責任者として組織横断的なプロジェクトを指揮。経営層のリーダーシップのもと、各部門と綿密に連携し、現場からのボトムアップの意見も的確に吸い上げる体制を構築

②金型製造現場出身による内製SEチームの組成と現場密着型開発

金型の製造現場出身の社員を中心に構成した社内SEチームが、自社業務に精通したメンバーとしてDXを技術面で牽引。現場と密接に連携しながら、システムの企画・開発・改善をすべて内製で実施、現場課題への迅速な対応と高い定着率を両立

③外部との連携・協業体制の構築

地域の専門学校や自治体、支援機関との連携を強化し、講師派遣・勉強会開催・事業連携などを通じた共創型の体制を構築。DX講演を通じて地域企業との連携機会を拡大して、地域全体のDX推進力の向上を志向


8. DX人材の育成・確保

当社では、DX推進に不可欠なデジタル人材の育成と確保を「中長期的な自社内製力の構築」と「地域社会との共創」を両輪とする方針のもと、以下の取り組みを展開しています

①未経験者をゼロから育てる独自の育成体制

自社SEチームは、金型事業部門出身の社員やIT未経験者を中心に構成されており、IT未経験から3~4年をかけてインフラ構築・アプリ開発・運用保守・製造現場の知識に至るまでのスキルを段階的に育成するリスキリング体制を構築

②自社案件による実践型スキル習得環境の整備

DX戦略の中心にある業務システムはすべて内製で開発されており、日々の業務課題をベースに開発・運用することが、技術者のスキル強化と業務理解の深化に直結。システム開発と現場改善を同時に経験できる環境により、社内のデジタル人材の質と定着率が向上

③地域教育機関との連携による外部人材の裾野拡大

地域の教育機関において、当社エンジニアが講師として情報分野の授業を担当。教育活動を通じて、地域におけるデジタル技術人材の興味喚起と育成に貢献しており、将来の採用や地域連携の礎となる関係構築を推進

STEP 1
入門:IT基礎・現場理解
STEP 2
応用:内製システム開発・運用
STEP 3
展開:対外支援・他社改善主導

9. ITシステム環境の整備

当社では、DX戦略の実行を支える基盤として、現場起点で設計された自社内製のITシステム環境を整備・展開しています

①内製型基幹業務システムの開発・導入

材料発注・生産計画・見積作成・作業日報など、業務の重要プロセスをカバーする基幹システムを自社開発。現場の課題・要望に素早く適合し、業務標準化・納期遵守・品質安定を実現する運用基盤を整備

②レガシー回避と段階的刷新の両立

手書き日報やExcelなど属人的な運用を段階導入で刷新。現場の理解度に合わせて移行し、現場負担を抑えながら、着実に導入と定着を推進

③クラウドサービスの積極活用と最新技術の取込

コミュニケーション、ファイル共有、リモート基盤などのクラウドサービスを活用し拡張性とスピードを確保。生成AIなどの最新クラウドサービスも段階的に導入し、類似検索や自然言語によるデータ検索などの高度化を推進

④セキュリティリスクへの対応

通信の暗号化、アクセス権限管理など基本的なセキュリティ措置を講じて、リスク軽減と安定運用を両立。従業員向けのITリテラシー・セキュリティ教育も実施し、技術面と人の面から多層的なセキュリティ対策を実施

10. DX戦略の達成指標

当社では、DX戦略の達成度を以下の3つの視点から評価する指標を定め、定期的な自己診断と経営会議での報告を通じて、進捗管理と施策見直しを行っています

区分 KPI項目 目標値・水準
戦略実施の進捗
(計画進捗)
新規内製システム導入数 2機能/年
開発・改善プロジェクトの完了件数 2件/年
クラウド・AI活用実装 クラウド・AI等最新技術の調査・導入の実施
DX効果
(業務改善)
労働生産性(チャージ) 5%向上/年
作業日報のデジタル化率 90%以上を維持
現場でのPC普及率 90%以上を維持
見積作成における過去データ活用 過去実績データ活用の運用実施
企業価値向上
(収益・事業成長)
IT事業の売上成長 前年比120%
金型事業の受注案件創出(IT事業経由) 1件以上/年
DX人材の育成人数 1名/年
地域貢献(講演活動) 2件以上/年
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